無題

 ダンスミュージックで体を動かす時計
 回り続ける子供
 階段を昇り降りし続ける二つの天秤


 けたたましく鳴り響く電子音楽、重低音が一定の間隔を刻み、お決まりのフレーズをひたすら繰り返すだけの空間。過剰なまでに多くの色が降り注ぎ、せわしなく動き回りながら存在をいたずらに主張する。タバコと酒と体臭のにおいで満ちているのはそこがパラダイスと呼ばれていた所以だろうか。原罪を何度も上演するためだけに、追放されるためだけの舞台装置。大音量による体の奥の重い共鳴を感じながら、身にまとった布のささやきを皮膚で聞く時計がいた。その場は時計に支配されると同時にまた時計を支配していた。まるで音楽を編集するように時計は恣意的に時間の刻みを遅らせ、または早め、また定型化されたパラグラフを必要以上に再生し続けることができ、それらを気が済むまで行った。檻は幾度となくその様子を眺め、ほくそ笑んだ。

 自らを過大評価する人がいた。知りたいことはすべて知っていて、行きたいところへはどこにでも行けて、やりたいことは全てできると信じて疑うことはなかった。とても容易である。何かを知ろうとしなければ全てを知ったことになり、知らないことは知っているふりで十分であった。どこか遠い国に行きたいなら自らの想像力の範囲で遠い国に行ったことにし、旅行記を書く程度は造作もなかった。朝起きてから夜寝るまで、世界はすべて自分のものであり、思いのままにできる対象であった。しかしその人にとって最も恐ろしいことは、その人が呼吸したまさにその一日はその一日である必要がなかったことである。

 宙に乱雑に浮かぶ大小さまざまな階段。パステルカラーで塗られたカラフルなもの、ものものしく重厚感あふれる手すりがついたもの、おしゃれな螺旋階段、神社を思わせる落ち着いた和風の石段などなど。
 うちの一つに、二つの天秤がいた。平面がかくかくと折れ曲がり、どこかと別のどこかを漸近的に接続することのみを志向したオブジェクトに腰掛けていた。あるいは底をすり減らしながらゆっくりと歩いていた。彼らは両端の二地点を行ったり来たりしながら、果たして彼らは何者で、いったい何がしたいのか考えあぐねていた。階段は極度に抽象化されたため上下は存在せず、雑多に集められた階段を天秤は気まぐれに比べてみたが、もはやそれはどちらに傾くことはなかった。